法人保険の「出口戦略」とは、会社で加入した保険を、いつ・どの方法で終わらせたり使ったりするかを、加入の段階から決めておくことです。保険料を払っている間に損金にした分は、解約したときに益金として戻ってきます。出口を決めずに加入すると、思わぬ年に大きな利益が出て、税金が重くなることがあります。
この記事では、出口の4つの方法(解約・払済保険への変更・減額・契約者貸付)と、それぞれの経理処理、役員退職金と合わせるときの考え方を解説します。
なぜ出口戦略が必要なのか
法人で加入する保険の多くは、保険料の一部または全部を損金にできます。ただし、損金にした分は解約返戻金として会社に戻り、受け取った年の益金になります。つまり、保険料を損金にする効果の多くは、税金をなくすものではなく、税金を払う時期を先に送るものです。
そのため、解約返戻金を受け取る年に、役員退職金の支払いや設備の入れ替えなど、大きな損金が出る予定を合わせておくことが大切です。これが「出口戦略」と呼ばれる考え方です。
出口の4つの方法
| 方法 | 内容 | 会社の経理処理(概要) | 保障 |
|---|---|---|---|
| 解約 | 契約を終わらせて解約返戻金を受け取る | 解約返戻金と資産計上額の差額を益金(または損金)にする | なくなる |
| 払済保険への変更 | 以後の保険料の払込みを止め、その時点の解約返戻金で保障を続ける | 原則として、変更時の解約返戻金相当額と資産計上額の差額を益金(または損金)にする | 小さくなって続く |
| 減額 | 保険金額を減らし、減らした部分を解約する | 減らした部分について、解約と同じように処理するのが一般的 | 小さくなって続く |
| 契約者貸付 | 解約返戻金の範囲で保険会社からお金を借りる | 借入金として処理し、利息を損金にする | 続く |
※2026年11月時点の税務の取扱いにもとづく概要です。使える方法や条件は、保険の種類や契約内容によって異なります。
それぞれの方法と経理処理
解約:返戻金と資産計上額の差額が益金になる
最も基本の出口です。解約すると、それまで資産に計上していた保険料(保険料積立金・前払保険料など)を取り崩し、受け取った解約返戻金との差額を益金(雑収入)または損金(雑損失)にします。
たとえば、解約返戻金が4,000万円、資産に計上している額が1,200万円なら、差額の2,800万円がその年の益金になります。同じ事業年度に3,000万円の役員退職金を損金にできれば、利益は相殺されます。
パターン別の仕訳例は法人保険の解約の仕訳と注意点で解説しています。
払済保険への変更:保険料を止めて保障を残す
払済保険への変更は、以後の保険料の払込みを止め、その時点の解約返戻金をもとに、保険期間はそのままで保険金額の小さい保険に切り替える方法です。会社の資金繰りが厳しいときや、保障を少し残しながら返戻金を育てたいときに検討されます。
税務では、変更時の解約返戻金相当額と資産計上額の差額を、変更した事業年度の益金(または損金)にするのが原則です(洗替経理)。ただし、養老保険・終身保険・定期保険・第三分野保険・年金保険(特約が付加されていないもの)から同じ種類の払済保険に変更する場合は、それまでの資産計上額を契約が終わるまで計上し続けることが認められています(2019年の通達改正で定期保険・第三分野保険も対象に加わりました。国税庁 法人税基本通達9-3-7の2)。
一方、異なる種類の払済保険に変更する場合(例:定期保険から終身保険へ)や、特約が付加されている契約では、原則どおり差額を益金(または損金)にします。つまり、変更のしかたによっては、解約していなくても益金が出ることがあります。「払済にすれば利益は出ない」とは限らない点に注意が必要です。
減額:保障の一部だけを解約する
減額は、保険金額を減らし、減らした部分を解約する方法です。減らした部分に対応する解約返戻金を受け取り、その部分の資産計上額を取り崩して、差額を益金(または損金)にするのが一般的な処理です。一度に大きな益金を出さず、退職金の支払いや赤字の年に合わせて少しずつ返戻金を受け取りたいときに使われます。
契約者貸付:保障を残したまま資金を借りる
契約者貸付は、解約返戻金の一定の範囲で保険会社からお金を借りる方法です。保険を解約しないので、保障はそのまま続きます。会社の経理では借入金として計上し、支払う利息は損金になります。一時的な資金不足をしのぐ方法で、返済しないまま利息が膨らむと契約が失効することもあるため、返済の計画も合わせて考えます。
出口の時期を決めるときの3つのポイント
1. 解約返戻率が高い時期と退職の時期を合わせる
解約返戻率(払った保険料に対して戻る割合)は、加入からの年数によって変わり、ある時期をすぎると下がっていく保険が多くあります。社長の退任予定の時期に返戻率が高くなるよう、加入の時点で保険期間や払込期間を考えておくことが出口戦略の基本です。
2. 益金と損金を同じ事業年度に置く
役員退職金は、原則として株主総会の決議などで金額が確定した事業年度に損金になります。実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その年度の損金にすることも認められています(国税庁 No.5208)。解約返戻金の益金と、退職金の損金が同じ事業年度に入るよう、解約の日と決議の日を顧問税理士と調整します。
3. 2019年7月8日以後の契約は資産計上のルールを確認する
2019年7月8日以後に契約した定期保険と第三分野保険は、最高解約返戻率が50%を超えると、保険料の一部を資産に計上します。資産に計上した分は、保険期間の後半などに決まった期間で取り崩して損金にします(国税庁 No.5364-2)。
| 最高解約返戻率 | 資産に計上する割合 | 資産に計上する期間 |
|---|---|---|
| 50%超70%以下 | 保険料の40% | 保険期間の前半40%の期間 |
| 70%超85%以下 | 保険料の60% | 保険期間の前半40%の期間 |
| 85%超 | 最高解約返戻率の70%(最初の10年間は90%) | 原則として最高解約返戻率となる期間まで |
※最高解約返戻率が70%以下で、年換算保険料相当額が被保険者1人あたり30万円以下の場合などは、この表によらず全額を損金にできます。詳しい要件は国税庁の資料で確認してください。
資産計上額が大きいほど、解約したときの差額(益金)は小さくなります。どれだけ益金が出るかは、資産計上額と解約返戻金の両方を見て判断します。なお、2019年7月7日以前の契約は以前のルールで処理されているため、契約時期によって計算が異なります。
出口を考えるときに確認したいこと
- 契約日、保険の種類、保険期間、払込期間
- 現在の解約返戻金と、今後の返戻金の推移(保険会社の資料で確認)
- 会社の帳簿上の資産計上額
- 社長や役員の退任予定の時期と、役員退職金の見込額
- 解約したあとに必要な保障(借入金の返済、事業承継の資金など)
役員退職金をどの方法で準備するかは、役員退職金の積立・準備方法の比較で解説しています。
まとめ
- 法人保険で損金にした保険料は、解約返戻金として戻るときに益金になる
- 出口の方法は、解約・払済保険への変更・減額・契約者貸付の4つ
- 払済保険への変更も、変更のしかたによっては、解約しなくても益金が出ることがある
- 解約返戻金の益金と役員退職金の損金を、同じ事業年度に合わせることが大切
よくある質問
- 法人保険を解約すると税金はかかりますか?
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解約返戻金から、その契約で資産に計上している額を引いた差額が、会社の益金になります。その年の利益が増えるため、役員退職金の支払いなど大きな損金が出る年に合わせて解約するのが一般的です。
- 払済保険に変更すれば益金は出ませんか?
-
出ることがあります。原則として、変更時の解約返戻金相当額と資産計上額の差額を益金(または損金)にします。養老保険・終身保険・定期保険・第三分野保険・年金保険(特約なし)から同じ種類の払済保険に変更する場合は、それまでの資産計上額を計上し続けることが認められていますが、異なる種類の払済保険への変更や特約付きの契約では差額を益金(または損金)にします。実際の処理は顧問税理士にご確認ください。
- 解約のタイミングはどう決めればよいですか?
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解約返戻率が高い時期、役員の退任予定、会社の利益の見込みの3つを合わせて決めます。解約返戻金の益金と役員退職金の損金が同じ事業年度に入るよう、顧問税理士と日程を調整するのがおすすめです。
- 契約者貸付を受けたお金は益金になりますか?
-
なりません。契約者貸付は保険会社からの借入れなので、借入金として処理します。支払う利息は損金になります。
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