社長の退職金(役員退職金)の準備には、法人で入る保険、小規模企業共済、経営セーフティ共済、会社に利益を残す内部留保の4つの方法がよく使われます。4つは「お金が会社のものか個人のものか」「税金がいつかかるか」「途中で自由に使えるか」が大きく違います。
この記事では、それぞれの仕組みと違いを整理し、組み合わせるときの考え方を解説します。
役員退職金はいくら準備すればよいか
準備する額の目安を出すときは、「功績倍率法」という考え方がよく使われます。
役員退職金の目安 = 最終報酬月額 × 役員としての在任年数 × 功績倍率
たとえば、最終報酬月額が80万円、在任年数が25年、功績倍率が2.5の場合は、80万円 × 25年 × 2.5 = 5,000万円です。
功績倍率は会社の役員退職金規程で定めます。本来は同じ業種・同じ規模の会社と比べて決めるもので、実務では昭和55年の裁判で示された「社長3.0」などの数値が目安として紹介されることが多いとされています。法人税法では、役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金にできないため、金額は顧問税理士と相談して決めることをおすすめします。
なお、役員退職金を損金にできるのは、原則として株主総会の決議などで金額が確定した事業年度です。実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その年度の損金にすることも認められています(国税庁 No.5208)。
4つの準備方法の比較
| 方法 | お金の持ち主 | 払うときの税金 | 受け取るときの税金 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 社長個人 | 掛金の全額が個人の所得控除(年84万円まで) | 一括は退職所得、分割は公的年金等の雑所得 | 加入に従業員数の条件あり。20年未満の任意解約は元本割れ |
| 経営セーフティ共済 | 会社 | 掛金は損金(総額800万円まで) | 解約手当金は会社の益金 | 本来は取引先の倒産への備え。40か月未満の解約は全額戻らない |
| 法人で入る保険 | 会社 | 返戻率により一部を資産に計上 | 解約返戻金は会社の益金 | 解約返戻金が多い時期と退職の時期を合わせる必要がある |
| 内部留保 | 会社 | 法人税を払った後の利益を残す | 支払う退職金が会社の損金になる | ほかの用途に使われやすく、退職金用に取り分けにくい |
※2026年11月時点の制度にもとづく概要です。
それぞれの仕組み
小規模企業共済:社長個人の退職金を国の制度で積み立てる
小規模企業共済は、中小機構が運営する、小規模企業の経営者や役員のための退職金の制度です。掛金は月1,000円から70,000円まで500円単位で選べ、全額を社長個人の所得から控除できます。掛金を払うのは社長個人なので、会社の損金にはなりません。
加入できるのは、常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は5人以下)の会社の役員などです。役員を退任したときに一括で受け取る共済金は退職所得、分割で受け取る分は公的年金等の雑所得として扱われます。一方、掛金を納めた期間が20年未満で任意解約すると、受け取る額が掛金の合計を下回ります(中小機構)。
経営セーフティ共済:会社の資金を損金で積み立てる
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、本来は取引先が倒産したときに資金を借りられる制度です。掛金は月5,000円から20万円まで設定でき、総額800万円まで積み立てられます。会社が払う掛金は損金になります(中小機構)。
解約したときの解約手当金は、掛金を納めた月数が40か月以上なら掛金の100%、12か月未満なら0%です(中小機構)。受け取った解約手当金は会社の益金になるため、役員退職金を支払う年に解約すると、益金と退職金の損金が重なり、税負担をならしやすくなります。なお、2024年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約から2年以内に払う掛金は損金にできません。
法人で入る保険:保障を持ちながら会社に資金を残す
会社が契約者となって社長に保険をかけると、社長に万一のことがあったときの資金と、退職金の財源の両方を準備できます。途中で解約したときの解約返戻金は会社の益金になるため、経営セーフティ共済と同じく、退職金を支払う年と時期を合わせることが大切です。
保険料の扱いは、2019年7月8日以後の契約から「最高解約返戻率」で決まります。最高解約返戻率が50%を超える定期保険などは、保険料の一部を資産に計上する必要があり、全額を損金にはできません(国税庁 No.5364-2)。保険料を損金にできても、多くは税金の支払いを先に送る効果であり、手元の資金は確実に出ていく点にも注意が必要です。
内部留保:自由度は高いが、取り分けにくい
会社に利益を残して退職金の財源にする方法です。法人税を払った後の資金なので税金の面での有利さはありませんが、使い道を自由に決められます。その反面、設備投資や運転資金に回ってしまい、退職のときに必要な額が残っていないこともあります。
退職金を受け取る社長の税金
役員退職金を一括で受け取ると、退職所得として、ほかの所得と分けて税金が計算されます(国税庁 No.1420)。
退職所得 =(退職金 - 退職所得控除額)× 1/2
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年) |
たとえば勤続30年で退職金3,000万円を受け取る場合、退職所得控除額は800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円です。退職所得は(3,000万円 - 1,500万円)× 1/2 = 750万円となり、この750万円に税金がかかります。
ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合は、その期間に対応する部分に「1/2」の計算が使えません。
組み合わせるときの考え方
4つの方法には一長一短があるため、1つに頼らず組み合わせるのが一般的です。考え方の一例は次のとおりです。
- 社長個人の分として、小規模企業共済を続ける
- 会社の分として、経営セーフティ共済や保険で、退職金を払う年に受け取れる資金を準備する
- 保険は、退職までの間の万一への備えとしての役割も含めて考える
- 不足する分を内部留保で補う
どの方法でも、役員退職金規程を整え、株主総会で決議したうえで支給することが前提です。会社の利益の見通しや、社長の年齢、退任の予定時期によって最適な組み合わせは変わります。
まとめ
- 役員退職金の目安は「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率」で考えるのが一般的
- 小規模企業共済は個人の所得控除、経営セーフティ共済と保険は会社の資金づくり、内部留保は自由度の高い財源
- 解約手当金や解約返戻金は会社の益金になるため、退職金を支払う年と合わせることが大切
- 受け取る社長の税金は、退職所得控除と「1/2」の計算で軽くなる
退職金の目安は役員退職金の計算方法と相場の計算ツールで試算できます。保険で準備した資金をいつ・どう受け取るかは法人保険の出口戦略、受け取るときの税金は役員退職金にかかる税金で解説しています。
よくある質問
- 役員退職金はいくらまで損金にできますか?
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法人税法では、不相当に高額な部分は損金にできません。実務では「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率」で目安を出し、同業・同規模の会社と比べて過大でないかを確認します。金額は顧問税理士と相談して決めることをおすすめします。
- 小規模企業共済の掛金は会社の経費になりますか?
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なりません。掛金は社長個人が払うもので、全額が個人の所得控除(年84万円まで)になります。
- 経営セーフティ共済を解約すると税金はどうなりますか?
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解約手当金は会社の益金になります。役員退職金を支払う事業年度に解約すると、益金と退職金の損金が重なり、税負担をならしやすくなります。なお、2024年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約から2年以内に払う掛金は損金にできません。
- 保険で退職金を準備すると節税になりますか?
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2019年7月8日以後の契約は、最高解約返戻率によって保険料の一部を資産に計上する必要があり、全額を損金にできるとは限りません。損金にできても、多くは税金の支払いを先に送る効果です。保険は、退職までの万一への備えも含めて検討するのがよいでしょう。
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