社長や役員が受け取る退職金(役員退職金)は、「退職所得」として、給与や賞与よりかなり軽い税金で受け取れます。一方で、役員の期間が5年以下の場合や、金額が高すぎる場合など、注意したい点もあります。
この記事では、受け取る人にかかる税金の計算方法と、支払う会社側の税金の扱いを、計算例とあわせて解説します。
受け取る人の税金:退職所得の計算方法
役員退職金は「退職所得」として、ほかの所得と分けて税金を計算します(分離課税)。退職所得の金額は、次の式で求めます。
退職所得 =(退職金の額 − 退職所得控除額)× 1/2
この退職所得に、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税(10%)がかかります。退職所得控除と「1/2」の2つの仕組みによって、税金が軽くなります(国税庁 No.1420)。
退職所得控除額
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
勤続年数の1年未満の端数は、1年に切り上げます。同じ会社で従業員として働いた期間がある場合は、その期間も役員の期間とあわせて勤続年数に含めます。
計算例:勤続30年で5,000万円を受け取る場合
- 退職所得控除額:800万円 + 70万円 ×(30年 − 20年)= 1,500万円
- 退職所得:(5,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 1,750万円
- 所得税:1,750万円 × 33% − 153万6,000円 = 423万9,000円。復興特別所得税(2.1%)を加えて約433万円
- 住民税:1,750万円 × 10% = 175万円
税金の合計は約608万円で、退職金5,000万円に対して約12%です。同じ額を役員報酬や賞与として受け取ると、ほかの所得と合算されて最高税率に近い税率がかかるため、退職金として受け取るほうが手元に残る額は大きくなります。
※2026年11月時点の税率による概算です。令和9年(2027年)以後は防衛特別所得税が創設され、復興特別所得税の税率が下がりますが、合計の税率は変わらないとされています。
役員の期間が5年以下の場合は「1/2」が使えない
役員としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金は「特定役員退職手当等」として扱われ、退職所得控除を引いたあとの「1/2」の計算が使えません(国税庁 No.1420)。
たとえば、役員の期間が4年で1,000万円を受け取ると、退職所得控除は160万円(40万円 × 4年)で、退職所得は840万円です。5年を超えていれば420万円になるため、税金は大きく変わります。会社を設立してすぐの時期や、役員に就任してまもない人に退職金を払う場合は、役員としての年数を確認しておきましょう。
ほかの退職金と同じ時期に受け取る場合
同じ年に2か所以上から退職金を受け取る場合や、前年以前に退職金を受け取っている場合は、退職所得控除の計算が調整されることがあります。たとえば、小規模企業共済の共済金を一括で受け取ると、退職所得として扱われます。同じ年に会社からの役員退職金も受け取ると、2つを合わせて計算します。
また、令和7年度税制改正により、確定拠出年金(iDeCoや企業型DC)の一時金を受け取ったあとに退職金を受け取る場合、調整の対象となる期間が「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に延びました。2026年1月1日以後に一時金を受け取る場合から適用されます。受け取る順番と時期によって税金が変わるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
源泉徴収と確定申告
退職金を受け取るときに「退職所得の受給に関する申告書」を会社に出すと、会社が正しい税額を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は必要ありません。申告書を出さないと、退職金の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算することになります。
支払う会社の税金:損金にできる時期と金額
損金にできる時期
役員退職金は、原則として株主総会の決議などで金額が確定した事業年度に損金になります。実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その年度の損金にすることも認められています(国税庁 No.5208)。
保険の解約返戻金や経営セーフティ共済の解約手当金など、退職金の財源を受け取る時期と同じ事業年度に損金を置くと、会社の税負担をならしやすくなります。詳しくは法人保険の出口戦略で解説しています。
高すぎる金額は損金にならない
法人税法では、役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金にできません。実務では「最終報酬月額 × 役員としての在任年数 × 功績倍率」で目安を出し、同じ業種・同じ規模の会社と比べて過大でないかを確認します(国税庁 No.5203)。退職の直前に役員報酬を大きく上げると、この計算の前提が疑われることもあります。
退任せずに受け取る場合(分掌変更)
社長が会長に退くなど、会社に残ったまま退職金を受け取る場合は、「実質的に退職したのと同じ」と言えることが必要です。法人税の取扱いでは、常勤から非常勤になった、取締役から監査役になった、報酬がおおむね50%以上減ったといった例が示されています。ただし、引き続き経営の主要な地位にある場合は認められません(国税庁 No.5203)。会長になっても実際に経営の判断を続けていると、退職金が役員賞与とされ、損金にならないおそれがあります。
まとめ
- 役員退職金は「(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2」に税金がかかり、給与より軽い
- 役員の期間が5年以下だと「1/2」が使えない
- 小規模企業共済や確定拠出年金の一時金と受け取る時期が近いと、控除が調整される
- 会社側は、損金にする時期と、過大にならない金額の2点を確認する
退職金の額の決め方は役員退職金の計算方法と相場(計算ツール付き)、財源をどう準備するかは役員退職金の積立・準備方法の比較で解説しています。
よくある質問
- 役員退職金5,000万円にかかる税金はいくらですか?
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勤続30年の場合、退職所得控除が1,500万円で、退職所得は1,750万円です。所得税(復興特別所得税を含む)が約433万円、住民税が175万円で、合計は約608万円(約12%)です。勤続年数によって変わります。
- 役員になって5年以内に退職すると税金は高くなりますか?
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高くなります。役員としての勤続年数が5年以下の場合は「特定役員退職手当等」となり、退職所得控除を引いたあとの「1/2」の計算が使えません。
- 役員退職金を受け取ったら確定申告は必要ですか?
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「退職所得の受給に関する申告書」を会社に出していれば、会社が源泉徴収で税金を精算するため、原則として必要ありません。出していない場合は20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算します。
- 社長から会長になったときに退職金を受け取れますか?
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実質的に退職したのと同じと言える場合は、退職金として扱えます。常勤から非常勤になった、報酬がおおむね50%以上減ったなどが目安ですが、引き続き経営の主要な地位にある場合は認められません。
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